3.4 第3の飛躍

・最適化アルゴリズムとしての「意識」

 第1章で宇宙の話をし、第2章で生命の話をした。 これは、第1章でエントロピー増大が重要な法則であり、 第2章では(エントロピーだけでなく)アルゴリズムが重要となったことを述べた。 そして、第3章の「意識」の話では、 (エントロピーとアルゴリズムだけでなく) 超越的な立場(「主観世界」を含む)が重要になることを説明した。 ただし、3.3まででは「意識」とアルゴリズムの関係について 触れなかったので、まずはそこについて触れておこう。

 第2章で、生命には最適化アルゴリズムとしての機能がはたらいているという考え方を示した。 それは、遺伝的アルゴリズム(進化アルゴリズム)である。 同様に、第3章では、意識の場合も脳神経系を中心にシステムの中に最適化アルゴリズムが 組み込まれていると考えられることを述べた。 それは「ニューラルネットワーク」と呼ばれるアルゴリズムに近いものを含むだろうが、 いまだに脳の研究は進んでいる途中であり、アルゴリズムがどのようなものか はっきりとはしていない。
 意識を生み出すアルゴリズムがどのようなものかはいまだに研究されている。 その中心に「ニューラルネットワーク」のようなアルゴリズムがあったとしても、 それ以外に、化学過程のアルゴリズムが絡んでいるかもしれないし、 細胞反応のアルゴリズムが絡んでいるかもしれない。 意識の電気論者は、化学過程や生物過程など本質ではなく、 単に神経アルゴリズムを単純化したニューラルネットワークモデルが本質だとか、 そのモデルを複雑化したものが意識を再現できると考える科学者も多い。 しかし、そう単純に考えて良いのか、その理由が(私には)見つかっていない。
 今後、「意識」が生まれるにはどのようなアルゴリズムが重要かが議論されると思うが、 いずれにせよ、生命の誕生に遺伝的アルゴリズムが重要な役割を果たしたのと同様に、 「意識」の誕生の場合も脳内アルゴリズムが重要な役割を果たしていると思われる。 つまり、第1章で宇宙の進化を理解するために重要だった概念が「エントロピー増大」 であったが、第2章の生命誕生や第3章の「意識」の発生を理解するために重要だったのは、 (エントロピー増大だけでなく)遺伝的アルゴリズムや脳内アルゴリズムだったということである。 そのことを知っておいてもらいたい。

・超越論的な立場から世界を考える

 宇宙、生命、意識を理解するにあたり、@エントロピー増大、 Aアルゴリズムの発生、B超越的な立場という3つの段階が必要だと考えた。 それは次のような形での理解のしかただった。

宇宙と時間:@エントロピー(宇宙の過冷却)

生命とネゲントロピー:@エントロピー(同上)、 Aアルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)

意識と存在:@エントロピー(同上)、 Aアルゴリズム(脳内アルゴリズム)、 B超越論的な立場(「主観世界」の理解)

 宇宙、生命、意識という3つの対象を、それぞれ別々に考察する 専門書は多くあった。しかし、3つの関連を考察し、 それらのつながりを含めながら議論する一般書はこの本以外に 見たことはない。 もちろん3分野の中のどの分野も難しく、どれも未解決の多い分野だ。 しかし、この3段階を上述のように理解することが、 一つの重要な方法だと私は考えるようになった。 それで本書に私の考えを示したわけだ。
 私の考えが正しいと言ってほしいのではない。 この3つの概念(宇宙、生命、意識)のつながりを 考えることが重要だと感じてほしいのだ。 今後の科学者の中に、是非、そういう感覚を持った人たちが 登場してくれたらと思う。