宇宙情報解析/太陽地球環境物理学

※ 宇宙データ解析の研究は諸事情により現在、停止中です。

1.宇宙情報解析

1−1.人工衛星データの情報解析により宇宙地球環境系という複雑系を料理する。

宇宙地球環境系は多自由度非平衡開放系であり、非線形性が理解の鍵をにぎる複雑系です。その物理を理解するためには、 人工衛星によって得られた大規模データを情報解析の手法で解析し、 計算機シミュレーションの手法も用いて諸現象を解明していく必要があります。 私は人工衛星で得られた大量の時系列データのパターンを解析しています。

2.太陽地球環境物理学 −地球・太陽・宇宙へ −


2−1.宇宙の中の地球環境:宇宙船「地球号」

 地球環境問題というと多くの人のイメージは、地球という閉じた世界があってその環境を人類が汚しているというイメージではないでしょうか。 しかし、実際の地球は宇宙空間の中にあり、人類が排出したCO2以外にも太陽や銀河などの影響を受けています。その意味で、地球環境は孤立した閉鎖系ではなく、 宇宙とつながった開放系です。したがって、地球環境問題を考える場合、地球温暖化だけでなく地球電磁環境変動や地球放射線環境変動まで含めた大きな枠組みで 地球環境変動を考える必要があります。つまり、人類が排出したCO2の影響はもちろん、太陽活動の影響、宇宙線の影響など様々な要因を考慮する必要があります。 さらに、各種変動の時間スケールも大きく異なっていますので、秒スケールでの変化なのか日変化スケールか年変化か数百年での変化かなど、 考察する時間スケールも重要になります。特に難しいのは、大きな時空間スケールの現象と小さなスケールの現象が複雑に影響し合っている場合です。 そのような現象をマルチスケール現象と呼びます。宇宙から見た地球環境という視点を持つことで、 我々はマルチスケールで地球環境変動の解明に挑むことが可能になります。

2−2.金星探査・火星探査・水星探査

 金星は大気中に多量の温暖化ガスを含んだ惑星であり、温室効果のため表面温度が470℃を超えてしまっている灼熱の惑星です。 また、火星は稀薄な大気しか持たず、温暖化ガスが少ないために温室効果が小さく、 そのため表面温度が-47℃という極寒の惑星となっています。つまり、地球は十分に濃厚な大気と適度な量の温暖化ガスを 含んでいたため表面温度が+15℃前後という温暖な環境となったと言えます。このように他の惑星環境を探査し、 地球環境と比較することで地球環境についてさらに詳細な情報が得られます。2010年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)は 金星探査衛星を打ち上げました。この衛星が無事、金星に到着し、データを送るようになれば惑星環境変動に 関する新しい知見が得られると期待されています。また、JAXAは2018年にヨーロッパ宇宙機関(ESA)と共同で 水星探査機を打ち上げました。(2025年到着予定。) 水星は最も太陽に近い惑星であり、しかも地球のように固有磁場を持っていません。つまり、電磁環境や放射線環境が全く異なる惑星と言えます。

 太陽地球環境物理学(宇宙空間物理学)は、地球から惑星、太陽までの空間で起きる現象の全てを扱います。 地上の空気は温度が15度ぐらいで密度は10**23個/ccぐらいですが、宇宙空間の粒子(プラズマ)はとても希薄で、 密度が1個/ccぐらいしかありません。でも、温度は1万度ぐらいでとても高温です。そのような粒子が電気を 持った状態で宇宙空間の中を飛びまわっているのです。そのために宇宙空間では様々な現象が起きています。 その一つが、北極や南極の周辺で見られるオーロラです。オーロラは宇宙空間で起こる様々な物理現象の結果として現れるもので、 宇宙空間の状態を地上に映し出しているテレビモニターのようなものだと言えます。


(左)現在も宇宙空間を探査しているGeotail衛星(提供JAXA宇宙航空研究開発機構)
(右)地上から見えるオーロラ(提供JAXA)


3.宇宙空間の複雑性

 宇宙空間で起こる現象を解析することの魅力は何と言ってもそのスケールの大きさと複雑さでしょう。 スケールが大きいだけならば天文学の対象である銀河や銀河団などの方が大きいわけですが、 残念ながらそのような天体は直接観測できません。つまり、人工衛星がその天体へ行って観測することができないのです。 したがって得られる情報が非常に制約され、その限られた情報から想像するしかありません。 これに対し、宇宙空間物理学の対象である地球や惑星、そして太陽は人工衛星で直接観測することができます。 したがって手に入る情報が非常に多く、そこから様々なことがわかります。特に、プラズマが引き起こす諸現象はとても複雑であり、 その複雑さを遠隔的な観測だけから理解することは到底不可能だということは少しプラズマ現象を解析してみればすぐにわかります。 つまり、遠い天体での現象を理解するためにも、地球から太陽までの諸現象を解析することによって宇宙空間物理学を構築し、 宇宙空間でのプラズマ諸現象を統一的に理解することが必要なのです。



(左)ロケットで人工衛星を打ち上げて宇宙を観測する。(提供JAXA)            
(右)宇宙空間で生じる現象は非常に複雑であり、人工衛星で直接観測しなければ理解は難しい。(提供JAXA)

4.宇宙への夢

 宇宙地球科学をやっていて感じるもう一つの魅力は、そこに人類の夢が乗っていることです。 その夢とは人類の宇宙進出や宇宙利用です。近年、GPSや衛星放送などの形で人工衛星の利用が一般的になり、 宇宙空間の利用が盛んになるにつれ、宇宙地球環境物理学はさらに人類の役に立つ分野になってきました。 特に、宇宙天気予報など太陽や地球周辺宇宙空間の擾乱を予測する研究などは、地震予知と同様に「人類のため」 という側面を強く持っています。宇宙地球科学の分野が理学者だけでなく工学者も多く参加して成り立っていることは、 そのような側面の現れでしょう。近い将来、地球環境問題のため宇宙利用はさらに活発になるでしょう。 例えば、地球温暖化を防ぐには太陽光エネルギー利用しかないと僕は考えていますが、 効率的な太陽光収集には太陽光を宇宙空間で収集して日本に送るか、あるいは日本より低緯度の国の砂漠地帯を 利用させてもらって太陽光を効率良く収集した後、それをレーザーに変換して静止軌道衛星に反射させて日本に 輸送するということになるでしょう。そのとき、人工衛星の姿勢が宇宙環境変動の影響を受けて変化してしまうと 輸送ができなくなってしまいます。このように将来、地球環境問題解決のために宇宙空間を利用する可能性はとても高く、 そのためにも宇宙や地球の環境をしっかりと理解しておくことは、この分野の重要な役割であると考えます。

 

(左)仮想的な宇宙生活(実際は地球上)            
(右)スペースシャトルと宇宙ステーション。(提供NASA)

5.人工衛星データ解析

主な研究対象は地球磁気圏です。地球磁気圏とは地球の周りの宇宙空間のうちで地球の磁場が 届いている範囲のことです。宇宙空間には太陽から出てきた熱いプラズマが存在しますが、それがすごいスピード(時速100万km)で 地球にぶつかってきます。地球は磁場で守られていますからそのプラズマが直接地球に当たることはありませんが、すごいスピードでプラズマが 磁場に当たるため、地球の磁場はゆがめられ、上の図右のように太陽と反対方向に伸びた形状になります。このしっぽのように後ろに伸びた 磁場の領域を尾部と言います。僕はこの尾部の磁場がどのような構造を持ち、その中でプラズマとがどのように運動しているのかを調べています。 その調査のために、「Geotail衛星」という日本が打ち上げた人工衛星の観測データを解析しています。

太陽から出てきた熱いプラズマは地球磁気圏にぶつかると、いったん尾部に貯められて、次に何らかの原因で急に開放されて サブストームという爆発的現象を引き起こし、加速されたプラズマは磁力線に沿って地球の北極と南極の上空に降り注ぎます。 そして、大気とぶつかり大気を光らせます。それがオーロラです。したがって、オーロラを観測することでも磁気圏の状態を知ることができます。 私は磁気圏の物理、そして、磁気圏とオーロラの関係を知るために、主に「Akebono衛星」というオーロラ観測衛星のデータと「Geotail衛星」 という磁気圏観測衛星のデータを解析しています。

 

(左)Akebono衛星が観測したオーロラ(宇宙から見たオーロラ)宇宙から見るとオーロラは北極(南極)の周りにドーナツ状に光って見える。(提供JAXA)
(右)太陽から吹き出したプラズマ(太陽風)と地球磁気圏。(提供JAXA)

6.学生への期待

宇宙や地球環境に関心を持つ学生がたくさん出てくるように、 もっともっと宇宙や地球環境の話をしていきたいと考えています。 そしていつか、宇宙や地球環境に関係した仕事に携わる卒業生が出てきてくれたら嬉しいです。